大判例

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名古屋高等裁判所 平成7年(行コ)24号 判決

控訴人①

安達克三

同②

飯田俊春

同③

伊藤國男

同④

石田良典

同⑤

岩本秀造

同⑥

榎本肇

同⑦

川杉昇

同⑧

小林泰治

同⑨

近藤正

同⑩

近藤昌彦

同⑪

柴田八郎

同⑫

嶋田弘二

同⑬

鈴木逸雄

同⑭

中村菊郎

同⑮

村上雄一

同⑯

毛利克己

同⑰

森保

同⑱

安田克己

同⑲

大橋浩治

同⑳

小出重成

永田和隆

右二一名訴訟代理人弁護士

鈴木典行

藤井成俊

被控訴人

桑名市長

水谷元

桑名市

右代表者市長

水谷元

右両名訴訟代理人弁護士

伊藤好之

主文

一  原判決中、主文第一項(船舶除却命令処分取消しの訴えを却下した部分)を取り消す。

二  控訴人らの前項の請求を棄却する。

三  控訴人①ないし⑱の控訴(損害賠償請求についてのもの)を棄却する。

四  訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決中、控訴人らに関する部分を取り消す。

二  被控訴人桑名市長が控訴人らに対して平成三年一一月一日付でなした原判決別紙船舶等目録記載の船舶に対する九華公園からの除却命令処分(本件除却命令)を取り消す。

三  被控訴人桑名市は控訴人①ないし⑱に対し、それぞれ金一五万八一〇二円及びこれに対する平成四年一月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

五  仮執行の宣言

第二  事案の概要

一  本件は、揖斐川の河口付近に面する桑名市吉ノ丸五番地(桑名城跡)に設置された九華公園(都市公園)内にレジャーボート等の船舶を係留していた控訴人ら(「ボーティングクラブ・クワナ」の会員)が、都市公園法に基づいて九華公園を管理する被控訴人桑名市長に対し、同被控訴人が控訴人らに対してなした本件除却命令の取消しを求めるとともに、本件除却命令による除却義務を履行しなかった控訴人①ないし⑱が、被控訴人桑名市長が行政代執行法に基づいて同控訴人らの船舶を九華公園外に移置した行為(本件代執行)は違法であり、これによりそれぞれ慰謝料一〇万円及び船舶の移転費用五万八〇一二円の損害を被ったと主張して、被控訴人桑名市に対し、国家賠償法一条に基づき、その損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めた事案であるが、原判決は、控訴人らの右取消しの訴えを却下し、控訴人①ないし⑱の右損害賠償請求を棄却した。

二  当事者双方の主張は、次のとおり訂正・付加するほか、原判決事実及び理由欄「第二」の「一」ないし「三」に記載されたとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一〇枚目表二行目の「原告ら」から次行の「考えられる。」までを「桑名市都市計画課長(浅野課長)の控訴人らに対する前記係留許可は、地方自治法二三八条の四第四項又は都市公園法六条一項に基づく使用許可又は占用許可である。」と改める。

2  (当審における控訴人らの主張―訴えの利益について)

訴えの利益は、処分の適法性に関する客観的な紛争を合理的かつ機能的に解決するため、真に解決に値する紛争のみを選択する手続制度であるという見地から考えるべきである。

かかる見地から考えると、本件除却命令が取り消されれば、控訴人らはその船舶を本件係留場所に戻して係留することができ、行政庁はこれを認容せざるを得ないことになるのであるから、本件除却命令の代執行がなされた後も本件除却命令取消しの訴えの利益は存在するというべきであって、これを否定した原判決は誤っている。

第三  当裁判所の判断

一  当裁判所は、本件除却命令が本件代執行によりその執行を終了しているとはいえ、その取消しを求める控訴人らの訴えには、なお法律上の利益が認められるものの、被控訴人桑名市の設置(同桑名市長の管理)にかかる都市公園(九華公園)につき、控訴人らが主張する本件係留場所の使用権原はいずれも認められず、本件除却命令に違法はないから、その取消しを求める控訴人らの請求は理由がなく、また、本件代執行にも違法はないから、これに違法があるとして損害賠償を求める控訴人①ないし⑱の請求も理由がないというべきであり、これらの請求をいずれも棄却すべきものと判断するが、その理由は、原判決事実及び理由欄「第三」の「一」を「一 争点1の(一)(甲事件の訴えの利益の有無)について」との標題の下に次のとおり改めるほか、同「第三」の「二」に記載されたとおりであるから、これを引用する。

「1 前記当事者間に争いのない事実によれば、控訴人らは、その所有船舶を九華公園内の本件係留場所に係留していたものであり、被控訴人桑名市長が発した本件除却命令は、右の状態(原状)を除去するために、控訴人らに対し、船舶を平成三年一一月二八日までに九華公園から除却することを命じた行政処分であって、これは、控訴人らが本件係留場所で占有する船舶を九華公園外に移動又は搬出するという一回限りの行為(作為)を目的とする処分であるが、平成四年一月に至り、これに従おうとしなかった控訴人①ないし⑱所有の船舶に対し本件代執行が行われ、その船舶は本件係留場所から桑名市東汰上内の市有地に移置された結果、本件除却命令の目的は実現された(現在、本件係留場所に控訴人らの船舶は係留されていない。)。

2 ところで、甲第八、第一八号証、乙第二〇、第二二号証、原審証人浅野誠吾及び同九鬼正典の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、本件係留場所の北側に流れる揖斐川から本件係留場所に入るには、その北側の堤防状部分に設置された開閉可能な水門(以下「本件水門」という。)及びこれに続く水路を通過しなければならないところ、平成元年六月頃、右水路の本件水門付近に、ごみ等の流入及び船舶の進入を防止するための開閉可能な柵(以下「本件柵」という。)が設置されたこと、建設省が管理している本件水門は通常は開門されているが、被控訴人桑名市長が管理している本件柵は、本件代執行終了後においては、本件係留場所を台風襲来時の避難場所として使用するなど特別の必要がある場合以外は閉じられていることが認められる。

3 右1及び2の事実及び法律関係に照らして考えると、本件除却命令によって控訴人らに課された公法上の作為義務は、本件代執行がなされたことにより消滅したものといえるから(なお、行政代執行を受けた者は、代執行に要した費用につき行政代執行法五条により納付を命じられることがあるけれども、これによって生ずる納付義務は、納付命令という別の行政処分による効果であって、代執行の根拠である原処分から直接に生ずる効果ではない。)、本件除却命令の適法性を争う訴えの利益は、本件代執行の終了により消滅しているようにも見える。

4 しかしながら、本件代執行の終了後においても、控訴人らの船舶を本件係留場所に係留すること(本件代執行前の原状に回復すること)は、本件柵及び本件水門を開けさえすれば事実上可能であるのみならず、もし本件除却命令が控訴人らの有する正当な本件係留場所の使用権原を侵害した違法な処分であるとして取り消された場合には、その確定判決は、当事者たる行政庁及びその他の関係行政庁を拘束するのである(行政事件訴訟法三三条一項)から、以後、行政庁は、当該法律関係の処理にあたっては右確定判決の趣旨を尊重しなければならず、取り消された本件除却命令に直接関連して生じた一切の違法状態を除去する義務が課せられるとともに、原状回復が可能な場合には、違法な事実状態を排除して本件代執行前の原状に回復しなければならないことになる。

もとより、右のような取消判決が確定したとしても、控訴人らが本件係留場所を使用するために、九華公園の管理者から与えられたという使用許可の内容(使用範囲及び期間などの許可条件)が細部まで確定されるとは限らないし、また、本件除却命令が手続上の瑕疵を理由に取り消された場合には、行政庁は右瑕疵を補正して改めて同一内容の処分をすることができるのであるから、本件除却命令の取消判決によって、本件係留場所の管理者と控訴人らとの間の法律関係を巡る紛争が常に全面的に解決されるとは限らないけれども、少なくとも、本件において控訴人らが主張している種類及び内容の使用権原の存否に関する争いが取消判決によって解決される可能性があり、控訴人らの船舶を本件係留場所に係留することも事実上可能である以上、本件除却命令の取消しを求める訴えの利益は、なお存在するものと解すべきである。

もっとも、行政処分が既に執行され、その取消しによる現状回復が不能となった場合に、右行政処分の取消しを求める訴えの利益が消滅するか否かの点につき、建築基準法九条一項の規定により除却命令を受けた違法建築物について代執行による除却工事が完了した場合には、右除却命令及び代執行令書発付処分の取消しを求める訴えの利益は消滅するとの判決(最高裁昭和四八年三月六日判決・集民一〇八号三八七頁)があるが、これは、行政処分の執行が終了した段階で、その効果が完了し目的を達してしまうという点では本件除却命令と同様であるにしても、除却された違法建築物の原状回復が事実上不可能であるのに対し、本件除却命令については、前記のとおり、その対象とされた船舶を本件代執行前の原状に回復することが事実上可能である点において、本件とは事案を異にしており(なお、違法建築物の除却命令を取り消しても、除却された建築物を適法に再築できる地位が生ずるものではなく、現状回復のためには新たに建築確認を受ける必要があるのに対し、本件除却命令については、前記のとおり、本件除却命令が控訴人らの有する使用権原を侵害した違法な処分であるとして取り消された場合には、右使用権原の存否に関する争いが取消判決によって解決される可能性がある点においても、事案を異にしている。)、本件に適切な判決とはいえない。」

二  よって、原判決中、控訴人らの本件除却命令取消しの訴えを却下した部分は失当であるから、これを取り消したうえ、本件除却命令に違法がないことについては既に原審の審理及び判断を経ているので、右取消しの請求を棄却することとし、控訴人①ないし⑱の損害賠償の請求も理由がなく、これを棄却した原判決は正当であるから、この請求についての控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官稲守孝夫 裁判官小松峻 裁判官松永眞明)

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